全 国
巨石磐座
探訪記
  
石宝殿
所在地;兵庫県高砂市阿弥陀町生石171
兵庫県
巨石
磐座
 
    

石宝殿は「日本三奇」の一つ
石宝殿(または石の宝殿)は昔から「日本三奇」の一つと云われるように、誠に奇妙な巨岩の造形で、生石(おうしこ)神社のご神体になっている。「日本三奇」とは、
九州の高千穂の峰山頂にある「天の逆鉾」、
宮城県の鹽竈神社の「塩釜」(境外末社の御釜神社にある)、
そしてこの石の宝殿をいう。生石神社は山陽本線(JR神戸線)の宝殿駅から南西に約1.5kmの所にある。
参道を進んだ先に社殿があり、門をくぐった途端に巨大な石の壁が立ちふさがる。石宝殿だ。直方体のご神体の周囲の狭い回廊をぐるりと巡ることができる。反対側は石の壁で囲まれている。

 
 

圧倒的な大きさ
大まかな大きさは、一辺が約6.5m〜7m、高さ約5.5m、重量は約500トンの直方体で、表面に浅くて広い溝が見られ、後部中央に三角形の出っ張りがある。上部には草木が茂っている。社殿を出て裏山に登ってみると、社殿の屋根が見え、その手前にある石の宝殿の上部全体が見渡せる。だが下の方はよく見えない。一帯が「竜山」といわれる石切場の一部で、巨大な岩盤の一角に狭くて深い溝を矩形に掘り出して、溝に囲まれた部分を直方体に仕上げた、のではないかとの見方が真っ当なようである。

とにかく、回廊が狭すぎて、全体像がこれほどに見えづらい磐座はめずらしい。写真も部分的にしか撮れず、全体像を写真で伝えることはほぼ不可能に近い。

神社の由緒は?
現地の説明板を要約すると、由緒は以下のとおりである。

大己貴命(おおなむちのみこと)と少彦名命が国土経営のため当地に立ち寄り石宝殿の工事を始めたが、麓で反乱がありそれを平定して戻ったときには夜が明けたので工事は中断され、未完成に終わった。工事で生じた石屑は一里北の高御位山に捨てられた。

説明板の末尾には万葉集の和歌が引用され、「おおなむち すくなひこなのいましけむ 志都の石室者(しづのいわやは)いくよへぬらむ」(注;原文は漢字にふりがな)の他3首が書かれている。

なお、詳しい由緒は末尾に示す。

 

参考文献は8世紀の昔からあった

数冊の参考文献を読んだが、石宝殿は昔から人々の好奇の目を引いたようだ。

中でも間壁忠彦・間壁葭子・著「石宝殿 古代史の謎を解く」にはかなり詳しく研究された知見が述べられている。著書ではまず、石宝殿を石切場の中の神社としてとらえ、ご神体が、まるで四角い井戸の中にすれすれに入れられたような状態であると表現している。

著書は天理大教授・西谷真治・著「天理大学学報第五十九輯」をはじめ「播磨国風土記」、「峯相記」などの文献を参照して論考を進めている。

それによると、最古の文献は8世紀に出来たとされる「播磨国風土記」で、この中に石宝殿とみられる、大石という造石の記述があり、物部氏によって造られたという。

ただし「播磨国風土記」は江戸時代になって初めて公開されたもので、それまで人々の目にふれることはなかったためか、「大石」の記事は上述の生石神社の由緒とは大きく相違している。現地説明板の「・・・大穴牟遅(おおあなむち)少毘古那(すくなひこな)の二神が・・・・一夜の内に工事を進め・・」た、という記述はもとより神話であり、現実の歴史的事実には見えない。

また、現地の説明板を読む限り、由緒の末尾に引用された万葉集の和歌中にある「志都乃石屋(しづのいはや)」があたかも石宝殿であるかのように思われがちであるが、国学者本居宣長の説を引いてその根拠はないとしている。

また、南北朝時代に書かれた「峯相記」(みねあいき)という書物中の石宝殿の記事を紹介し、その内容を意訳している。「社にするため、石で造作をした天人が、夜が明けたために引き起こす間がなくなって、このまま天に帰ったもの・・・」だという。ここでは「風土記」にいう人間が造ったという伝承は失われ、天人つまり神が造ったことになっている。

江戸時代中期の「播磨鑑」(はりまかがみ)に記述された石宝殿の略縁起は「・・・二神御意を合せ、五十余丈の岩を切ぬき石屑は一里北たかみくら山の峯に投をくり玉ひ、一夜の間に二丈六尺の石の宝殿をつくり、二神鎮座在す・・・」とある、と紹介している。二神とは、高御位大明神と少彦名命生石の大明神とされる。

 

石宝殿の謎は解けたか?

上田正昭監修・播磨学研究所・編「播磨国風土記・古代からのメッセージ」は1996年に発行されたが、まず石宝殿の座す竜山の石が5世紀代に長持形石棺に盛んに使われたという背景を記した上で、「この石の宝殿はじつは、横口式石槨を製作途中で放置したもの、中断したものです。」と断定している。石槨とは古墳などの中に棺を納めるための石の部屋のことで、「横口」(入り口)は現在上部にあると思われ、社殿の後方にある三角形の出っ張りは工事完了後に90度起こして上部の屋根になる予定だった、という。石を加工するときには、横向きにまっすぐ掘り進むのは非常に難しいので、必ず上から下に向かって掘り進んでいって、最後に横倒しにする工法が普通はとられる、という石工の話を載せている。そして七世紀当時の相当な権力者の石槨として計画されたが、大化の改新によって滅亡したために工事は中断されたのではないかと推測している。

 
 

人工の巨石加工物には歴史があった
の記事は非常に現実的で説得力がある。
一般に、巨石磐座は自然の岩が多いためか、その由緒は神話や伝説を拠り所にしている事例が多い。だが石宝殿は明らかに人間の手によって加工されたものであるから、厳然とした歴史的事実が存在する。それが長年にわたり風化して忘れ去られたとき、人々の好奇心をかき立てそれが伝説や神話に結びついて事実とは異なる説話や由緒ができあがった結果が錯綜する。
「石宝殿 古代史の謎を解く」並びに「播磨国風土記・古代からのメッセージ」土地の特性や歴史的背景から、その謎を解明している。「日本三奇」の一つが「奇」ではなくなったわけだ。

しかしながら、謎はなぞのまま残った方が、楽しい、と云えなくもないが、神話伝説と現実世界とは並行して両立しているものだと思いたい。

参考文献;

 

現地説明版
谷川健一・編「日本の神々」第二巻 (株)白水社
「日本三奇 史跡 播磨國石之寶殿 生石神社略記」生石神社・発行
間壁忠彦・間壁葭子・著「石宝殿 古代史の謎を解く」
神戸新聞総合出版センター・発行

上田正昭監修・播磨学研究所・編
「播磨国風土記・古代からのメッセージ」
神戸新聞総合出版センター・発行

 

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詳細な由緒
神社発行の「日本三奇 史蹟 播磨國石乃寶殿 生石神社略記」の記事の一部

「神代の昔大穴牟遅(おおあなむち)少毘古那(すくなひこな)の二神が天津神の命を受け国土経営のため出雲の国より此の地に座し給ひし時 二神相謀り国土を鎮めるに相應しい石の宮殿を造営せんとして一夜の内に工事を進めらるるも、工事半ばなる時阿賀の神一行の反乱を受け、そのため二神は山を下り数多神々を集め(当時の神詰 現在の高砂市神爪)この賊神を鎮圧して平常に還ったのであるが、夜明けとなり此の宮殿を正面に起こすことが出来なかったのである、時に二神宣はく、たとえ此の社が未完成なりとも二神の霊はこの石に籠もり永劫に国土を鎮めんと言明せられたのである 以来此の宮殿を石乃寶殿、鎮の石室と稱して居る所以である。」
 

 
 
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