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巨石磐座
探訪記
  
伏見稲荷大社の磐座 京都府
巨石
磐座
 
 
 御劔石
 

御劔石 (京都市伏見区深草藪之内町)
 
 
 長者社(御剣社)
 
      お稲荷さん、といえば誰もが連想するのが連続した赤い鳥居、巻物などを加えた神の使いとされる狐の像などで、(ときには、いなり寿司が思い浮かぶこともあったりして・・・)「お稲荷さん」として、我々に身近な存在となっている。しかしながらその信仰形態は複雑多様で、神社だけでなく仏教寺院が神仏習合の形式をとって稲荷神を祭祀するだけでなく、特に一般の企業や個人がその敷地に祠を造って商売繁盛などを祈願する例も多い。

 
  祭神も多様で、仏教的稲荷神の荼吉尼天(だきにてん)や、稲荷神社の祭神は親神としての稲荷大神の分神としてその名を変え、宇迦之御魂神(うかのみたまのかみ)、保食神(うけもちのかみ)の他多数の神々がそれぞれの神社に祀られる。全国に約4万社あるという稲荷神社の総本宮とされるのが京都の伏見稲荷大社である。祭神は宇迦之御魂大神、佐田彦大神、大宮能売大神の三柱で稲荷三神とされる。人々は稲荷神に商売繁盛、交通安全、家内安全、身体健全、安産成就など生活に身近な願いを祈願する。伏見稲荷大社はさらに鍛冶の守護神としても崇敬される。   
   

大森恵子・著「稲荷信仰の世界」には、伏見稲荷の創始は渡来人であった秦氏によるという伝承が「山城国風土記」にあるとし、秦氏の祖先が餅を的にして矢を射たところ、餅は白鳥となって稲荷山の一角に飛び、その場所から稲が生えてきたのでそこに「いねなり」社を奉祭した、という記事を紹介している。
愛知県の豊川稲荷は曹洞宗に属する寺院であるが、同様に岡山の最上稲荷は、正式には最上稲荷山妙教寺と云う通り、仏教の流れを汲む神仏習合の稲荷社である。
稲荷神社に共通するのは、多くの赤い鳥居と共に、沢山の塚である。 

 

 伏見稲荷大社の背後にそびえる稲荷山(233m)は全山が聖域とされ、社殿の傍らから続く千本鳥居といわれる連続した赤い鳥居の中をくぐってお山巡りをする。大量の鳥居は崇敬者の奉納によるものでその数は山全体で一万基を超えるという。途中でおびただしい数の塚に遭遇する。稲荷山の三つの峰すなわち一ノ峰、二ノ峰、三ノ峰のそれぞれに上社、中社、下社の神蹟があり、塚はそれらを中心にしてストーンサークル状に円陣を描いて配されているという。(「日本の神々第五巻・P179・伏見稲荷大社」)

 

 
 
 
 自然石で出来た塚は信者によって建てられたもので、福徳大神や白龍大伸などそれぞれ信者が信仰する神々の名が彫られ、しめ縄がかけられ小さな鳥居と共に祀られている。これらの塚は、背後の稲荷山全山を埋め尽くすほどである。大規模な塚は祭壇のような石垣の上に多くの塚がひしめき合い、かけられたしめ縄と赤い小さな鳥居群が、一種のおどろおどろしい神秘的なハーモニーを放出している。信者たちはそれぞれが信仰する塚の前で、大祓祝詞と共に大般若経を合唱するという。

稲荷信仰を支えるエネルギーは、人間の世界を司る神と仏を一体として仰ぎ、五穀豊穣、家族円満、商売繁盛などを願う民間信仰に支えられる、と見られる。これらは、山を畏怖する山岳信仰、五穀豊穣を願う自然崇拝など人々の根源的な想いが源流にあるように思われる。

 
 
   さらに最も奥の根源にある巨石信仰が、ここ伏見稲荷大社にもあった。頂上から少し下ったところにある長者社、又の名を御剣社ともいう神蹟の一つである。長者社のご神体は社殿の背後にある巨岩で、御劔石といわれ、下部に井戸がありここで刀鍛冶が稲荷大神の力を借りて名刀を鍛えたと伝わる。この故事にちなみ鉄工の神様として金属加工産業従事者の信仰を集めている。ここを中心にして、業者が奉納した鳥居や塚が密集している。

昨今は平日にもかかわらず、稲荷山は大勢の外国人観光客で賑わっている。彼らの会話の内容は分からないが、飛び交う言語は世界の言葉のるつぼをぶちまけたようだ。外国人たちの間を歩いていて、たまに日本人に出会うと、何故かホッとするのだった。

 
 参考文献;  現地説明板
大森恵子・著「稲荷信仰の世界」・慶友社
谷川健一・編・山上伊豆母・著「日本の神々第五巻
-伏見稲荷大社」・(株)白水社
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