全 国
巨石磐座
探訪記
 
 
河内の大石
 静岡県の
巨石
磐座
 
 

 所在地;静岡県静岡市清水区河内字宝の窪
 
 

  
 「河内」というと大坂地方を想起する人が多いかもしれないが、ここは静岡県である。静岡市清水区はもと清水市であり、日本列島の中央部に位置している。
静岡市清水区の駿河湾沿いに走る国道1号線の興津ICから国道52号に入って北上する。但沼町で県道75号に入り、次いで県道196号を進む。県道は興津川に沿って蛇行し、八幡温泉を過ぎると既にそこは河内地区である。県道を逸れて程なく大石神社に着く。
 
  神社といっても巨岩の下部に小さな祠と鳥居があるだけのものである。高さ19m、周囲60mの巨大さを誇るこの岩が大石神社の発祥の基となった。 ここは興津川上流の北側に位置し、ほぼ直線距離で約2.5km離れた西側に真富士山(1343m)がある。  
「清水市史」によると、現在の清水区は東海型気候区とされ、興津川上流は降水量が多く、平常は清らかな水が美しいせせらぎとして流れる興津川であるが、一旦大雨が降るとその上流地域では西側の山地から巨大な岩石がすさまじく落下しそのガレが山頂から谷底まで続いたと云われる。河内の大石は、そのような自然現象の結果、現在の場所に鎮座することになった。この巨岩には古代の二神が祭祀され、岩の麓に鳥居と祠が建てられている。祠の反対側には説明石板があって、由緒が詳しく記載されている。

その全文を引用する・・・・・
「日本一安産石由来記;  茲興津川上流 眞富士山麓 清水市河内石澤に 高さ十九米 周り六十米 容姿雄大にして端麗な石英粗面岩の一大巨石を見る これ世謂安産石で これに御産巣日神 神皇巣日神を祭る 巨石は眞富士 龍爪火山より生まれた 時は安政二年旧七月二十六日夜半 陣痛は実に安政の大地震より翌年の大豪雨まで二カ年の長きに互った安政元年霜月二十八日突如として起こった大地震は眞富士連山を震撼し岩石をとばし地鳴り続き人心恟々として唯籔中に逃れ念仏祈祷するのみ  続いて翌年安政二年七月二十六日には豪雨沛然として到り 正午より夜半に及び 地震にて崩れ落ちた土砂岩石を泥流と化し流れ去った夜明けて空は一点の雲もなく晴れ渡り昨日の恐ろしさは忘れたかのような好天気であった そこに純白な一大巨石が端座していた 人々の驚きはたとえようもなかった 而し総てを失い忘然自失していた里人にとっては救いの主であり頼もしい姿であった  これにすがり生きる力を得んと希ったことは当然である  時の神職小澤岩見守清麿は人々の気持ちを巨石に託し前記二神を祭り里人の加護と繁栄を祈願した それ以来人心は希望に満ち生産は進み 立願すれば産婦人の安産は勿論子供のない人には必ず子寶を授ける霊験誠にあらたかであり誰云うとなく安産石と呼ばれるようになり毎年旧七月二十六日盛大な祭典を挙行し多くの参拝者の尊崇を得ている四十一年八月二十六日  長岡弘司 選文」     

この説明文の出典は「両河内村誌」のようで、同誌の編者は長岡弘司氏である。「石は語る」には、「里人はこの巨石を真富士の産み落とした子供とみなし、願を立てれば安産や子供が授かる「安産石」として祀った。」と書かれている。また、「静岡の文化50号」には、 「・・・・・伝承では、当初、大石は真富士山直下のオオタルキョウという狭隘な谷に留まっていた・・・この石の幅しかない谷で、その狭いところを1年近くかけてようやく通ってきたので、子どもを産む産道になぞらえて安産を祈願するようになった・・・・・」と記載されている。

 
 鳥居の右側には数々の絵馬が寄せられていて、そのほとんどは安産を願う女性たちの切なる願いが書かれ、又、無事に出産出来た人たちの感謝の祈りが込められている。これらの女性たちには元気な赤ちゃんたちが授かったのであろう。
この、ほのぼのとした一画を見ると、磐座信仰が過去のものではなく、現在も生きている一つの例としてひしひしと実感できるのである。
 

参考文献; 

長岡弘司・編「両河内村誌」
静岡新聞社・著「石は語る」
清水市史編さん委員会・編「清水市史 第一巻」
(財)静岡県文化財団「静岡の文化」編集部・編「静岡の文化
50号」 

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