全 国
巨石磐座
探訪記
  
大国主と赤猪石

*** 封印された神話の巨石 ***

鳥取県
巨石
磐座
 

 所在地;鳥取県西伯郡南部町寺内232
 
 大国主の命は、日本の八百万の神々の中で、私たちにとって最も馴染みの深い神様であると云えよう。稲葉の白うさぎ伝説や、稲佐の浜の国ゆずり神話など、幼い頃から親しんできた。また、オオナムチの命や大黒様など多くの別名を持つ事でもよく知られている。
 古事記の白うさぎ伝説では、大国主は兄弟神たちの旅の荷物運びの従者として描かれる。 その花嫁探しの旅において、彼らの求婚を断った女性が大国主を相手に選んだことから、兄弟神たちに恨まれ、謀略に遭う。 
 伯伎国(ははきのくに・・・鳥取県西部)の手間山において、八十神(やそがみ)といわれる兄弟神たちは、
 「赤き猪この山に在り。故、われ共に追い下しなば、汝待ち取れ。若(も)し待ちとらずば、必ず汝を殺さむ。」
と言って、猪に似た石を真っ赤に焼いて転げ落とした。下で待ち受けた大国主はその石を抱いて焼け死んでしまう。 
    彼らの策略による大国主の死を聞いた母神は、蚶貝比売命(キサガヒヒメ)という赤貝の女神と蛤貝比売命(ウムギヒメ)という蛤の女神を呼んで、死んだ息子を蘇らせた。二人の女神は貝殻を刻み磨って粉にしたものに母乳と蛤の汁を混ぜ、大国主のやけどした体に塗って治療した、と語られる。

 生き返った大国主命は後に、少彦名命と共に国土を開拓し、出雲の国を平定したが、天つ神に国を譲れと迫られて最終的には出雲大社に祀られることになった、と伝えられる。  
 
 

 米子市から直線距離で約6km南に赤猪岩(あかいわ)神社という小さな神社があり、その名のとおり、大国主と猪岩のエピソードが伝えられている。その南方には標高300mほどの「手間要害山」があり、この神話の舞台となった山とされる。
 赤猪岩(あかいわ)神社の境内には、平らな巨岩が石の玉垣で丁寧に囲われている。幅約2m、長さ約3mほどであろうか。説明版によると、「大国主命が抱いて落命した」という焼けた岩は二度と掘り返されることがないように土中深く埋められ、大石で幾重にも蓋をされた、とのことである。

 
   そして赤猪岩神社は「受難」「再生」「次なる発展への出立」の地として「再起」にご加護を願う場となっている。
 また、近くの清水川地区には、ウムギヒメが大国主を蘇生するための薬を練る際に水を汲んだとされる清水井が史跡となっている。
 このように当地における神話の舞台は一応整ってはいるが、「日本の神々 第7巻」では赤猪岩神社の成立過程に若干の疑問を投げかけている。(以下同書による)
 
    嘉永および安政時代(19世紀)の文献によると、手間山に赤磐権現が祀られ、また赤猪石という岩がほぼ土中に埋まっていて、土地の人がこの上に登ったら祟りがあった。村民はこれに土を覆って上に石を置いて、畏敬し祀った、という記事があるものの、赤猪岩神社の名称は見当たらない。明治に入って書かれた書物に、赤猪岩神社の名が登場し、「焼石の神跡をもってその由緒とする」と書かれている。「日本の神々 第7巻」には「(明治4年に)大穴牟遅の神跡であることを強く主張して赤猪岩の名を冠し、神社としての存続を許可されたものと推測される。」と記述されている。  
   赤猪岩神社の名が明治以前の文献には登場しないにしても、手間山の赤磐権現や土中に埋まっていた赤猪石、ウムギヒメゆかりの清水井など大国主神話の舞台を彷彿とする素材がそろってはいる。  
  古代の神話伝説を後世に伝える手段として、これらの素材を利用して磐座などを保有する神社として構成することの意義は大いにあるのではないかと思われる。
 一方で、この神話に登場する真っ赤に焼いた岩がどういう訳か、赤猪石(あかいし)として出雲地方から遥か離れた浜松市舞阪町の岐佐(きさ)神社の境内に保存されているのだ。 
    舞阪町は浜名湖南部の遠州灘に接する小さな町である。近くを国道1号線が走り、往年は東海道沿いの宿場町として発展してきた。岐佐神社はそのような街中にあり、赤猪石は境内の社殿の左側に注連縄を掛けて祀られている。当神社のご祭神は前出の蚶貝比売命と蛤貝比売命の二柱で、水産、漁業の守り神、地域の氏神とされる。

 この神社も、赤みがかった石という神話の素材を用いて、出雲神話を伝えている。

 
岐佐(きさ)神社

参考文献;

 
 静岡新聞社・著「石は語る」
三浦佑之・著「口語訳古事記」
舞阪町史研究会・編「舞阪町歴史散歩」
三浦譲・編纂発行「全国神社名鑑<上巻>」 
舞阪町史編さん委員会・編「舞阪町史 上巻」
谷川健一・編「日本の神々 第7巻 山陰」・(株)白水社
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