全 国
巨石磐座
探訪記
  
雲峰寺の裂石
巨石
磐座
     

所在地;山梨県甲州市塩山上小田原172 

萩原口留番所
フェンスの奥に
裂石が見える
 
 甲州市の中央部に裂石という巨石がある。山梨市方面からは国道411号線を東進するが、国道沿いには目印もなく、看板もない。グーグル地図などで位置を確認した上で、国道をそれて脇道に入ってすぐに、萩原口留番所跡という史跡についての説明板を見出せば、そこが目的地の下である。擁壁を左に回り込んで上に登ればそこに裂石がある。

口留番所というのは、江戸時代の人や物資の出入りを取り締まる簡便な関所のことで、当地にあったという説明板に写真はあるが、実物はない。

裂石は見上げるような巨岩が二つに裂けたように空間の両側に分かれて鎮座している。

神社の入り口のように、擁壁状の石垣の中央に階段があって、登った先の両側に四角い石柱が立てられている。裂石の下部には木製の祠がある。

 
雲峰寺本堂
  
 さて、雲峰寺という寺院はここから2kmほど離れている。雲峰寺の山号は裂石山となっているが、境内の説明板には、

 「雲峰寺より下方1.5kmほどの場所に「お割れ石」と呼ばれる花崗岩の巨岩(裂石)があり、伝説ではお割れ石の間から生えた萩の木が一夜にして大きく育ち、咲いた花が散って落ちたところに上萩原・中萩原・下萩原の地名ができたといい、行基菩薩はこの萩の木で十一面観音を刻んだとも伝わっています。」

と書かれている。  
境内
 
割れ目から萩の大木が
 

「大菩薩連嶺」という書物によると、

雲峰寺の開祖・行基は伝説上日本武尊に次いで二番目に大菩薩峠に立った人物で、745年大菩薩山一帯の空に霊運たなびき、にわかに大地が震動すると、当地の大石が真二つに裂け、その割れ目から萩の大木が出現した。これを霊験と感じた行基はこの大木を三つに切り、巨岩の上で礼拝しながら三体の仏像を刻んだ。その一体を安置した草庵が裂石山雲峰寺となった。

という由緒伝説が書かれている。

雲峰寺は武田家から武運の祈願寺として崇敬され、寺宝として「日の丸の御旗」、「孫子の旗」、「諏訪神号旗」など武田家の旗が保存されている。中でも信玄の「日の丸の御旗」は現存する日本最古の日章旗として貴重なものである。

  

雲峰寺参道
 
左側の裂石
 
 裂石の前に立って、開祖の行基がここで十一面観音像を製作した後、草庵をどこに建てたのか、考えを巡らせた。現在の雲峰寺がここから離れた位置にあるからだ。何故、創建の元になった巨石と2kmも離れた所に雲峰寺があるのか?

江戸時代にあったという口留番所は、行基の時代にはない。

裂石の手前の石積の階段と登った先の二本の石柱は、いつ何のために造られたのか分からないが、巨石を崇拝するためとは考えにくい。

右側の裂石
 
 比較的古い文献をあらためて見てみる。「東山梨郡誌」には、

へ言ふ、人皇四十五代聖武天皇天平十七年僧行基、此山中に行化あり、其夜忽ち霊雲靉靆山谷鳴動し、五丈餘の大石俄に半裂し、内より萩の大木を生じたり、行基之を伐りて観音の像を刻み、一庵を草創し、裂石山と號し地を萩原と名く。」

と記載されている。これをそのまま解釈すると、行基は、裂石の前に草庵を建てたのではないか?と思えてくるが・・・。

   甲州市役所観光課に問い合わせたところ、雲峰寺の近くに住んでいて歴史に詳しい人に尋ねることができた。すなわち、

草庵は、現在の上萩原・中萩原・下萩原の三か所に建てられ、その一つが雲峰寺となった。そして裂石の前の石段と石柱は口留番所の址であって、行基の時代のものではない。

 という説明を受けた。飛鳥・奈良時代から江戸時代、そして現代へと時間軸に串刺しにされた、この地の小さな歴史が明確になったような気がした。

 

参考文献;

 

現地説明板
岩科小一郎・著「大菩薩連嶺」・(株)朋文堂
土橋里木・著「甲斐の伝説」・第一法規出版(株)
山梨教育会東山梨支会・編「東山梨郡誌」・(株)名著出版

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